組織にとって「攻め」とは何か

あけましておめでとうございます。 昨年末のツイート投票で候補に入れたタイトルの最下位、

組織にとって「攻め」とは何か

から2020年を始めたいと思います。 お察しの方もいらっしゃるかもしれませんが一番書きたかったのはこれだったところ、案の定他の選択肢の方が人気でした(笑)

背景

昨年末も取り上げた blog.coquelicotlog.jp 法務に関する「令和報告書」のみならず、人事や経理等についても「守り」から「攻め」へという潮流を感じています。 細かいニュアンスは異なれど、いずれも 「受け身でルーティンワークや起きたことに対応するのではなく、積極的に価値を創出する活動をする」 ことを、これまではそのような働きが求められていなかった職能に対しても期待していると受け止めています。 一方、過去に「守り」をしていたということは、当該部分が守られるべき理由があるということでもあります。 ならばなぜいま「守り」の脱却が求められるのかについて、断片的に考えてきたのでこの辺りで放流して、折々に識者と意見交換をしたいと思ったのが、この記事を書こうと思った背景です。

2020年以降の仕事と働き方の在り方

AIで代替されて消える可能性のある仕事の存在が指摘されてからも数年経ちました*1。最近ではそうも簡単ではないという話もあります*2。 一方、少なくとも労働人口は減少しか想定できないわけ*3ですので、過渡期において企業等の既存の組織で必要となるのは、

減少する人員で既存の業務を運営しつつ、新しく発生する業務に対応する

ことと考えられます。 AIやRPAといった技術の活用は、新しい業務であると同時に、既存業務をいかに少人数で回すかにも重要な位置を占めます。ここで時間の余剰を生み出した上で、新しい仕事に取り組む。これから求められる働き方の大きな流れを、この考えは大きく外していないと私は考えています*4

加えて環境変化が「戦略」的な職務への必要性を増している局面もあります。 技術の進化、グローバル化諸々踏まえ、環境の変化が激しいという現状はある程度の共通認識と言えると思います。その中でも組織が自分の道筋をつけて進んでいくために求められているのが「戦略」、特に変化に対応して即時に新たな手を打つこともできるような組織の戦略的な能力です。その上で戦略を組織全体や事業に閉じず、各職能に求めたうえで権限をある程度委譲し、「現場」に近く一番生の情報量があるところに実行力を持たせることも今後さらに起きてくると思われます。 このあたり、年末年始に読んでいる

世界標準の経営理論

世界標準の経営理論

が理論的背景を踏まえつつ幅広い論点を分かりやすく記述していますのでお勧めできます。

組織における「攻め」の定義

かかる現状認識を踏まえた上で、組織における「攻め」とは何かを考えます。 これまでの「攻め」を掲げる報告書等をいくつか見てみました*5

タイトル 定義 出典
「攻め(パートナー機能)」 ①現行のルールや解釈を分析し、適切に(再)解釈することで当該ルール・解釈が予定していない領域において、事業が踏み込める領域を広げたり、そもそもルール自体を新たに構築・変更する(クリエーション)および②「事業と経営に寄り添って、リスクの分析や低減策の提示などを通じて、積極的に戦略を提案する(ナビゲーション) 国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会 報告書~令和時代に必要な法務機能・法務人材とは~*6
グループガバナンスにおける「攻め」の論点 積極的な事業ポートフォリオマネジメントによる経営資源の最適分配および多様な事業分野を束ねて全体最適を実現する高度な経営力 第10回 CGS研究会(コーポレート・ガバナンス・システム研究会)第2期事務局説明資料(2018.10.10)*7
攻めの標準化人材 自社の経営戦略や事業戦略を理解した上で、標準化を含めたルール形成戦略を策定する 標準化人材育成アクションプラン(報告書)*8
「攻めのIT投資」 ITの活用による企業の製品・サービス開発強化やITを活用したビジネスモデル変革を通じて、新たな価値の創出やそれを通じた競争力の強化を目指す 攻めのIT経営中小企業百選 *9

いずれも特色はありますが、

  • 経営戦略、事業戦略の理解と実行
  • 新たな価値創出

が「攻め」の要素とされているのは確かと思料します。

「攻め」の担い手は誰か

ここからは考えがまとまっているわけではなく、今後、その嚆矢として本年、仕事でも研究でも考えていきたいところのひとつなのですが、この「攻め」を組織の中で担うのは「誰」なのかを考えています。 売りを立てていればすなわち「攻め」ではない(常連客から繰り返し受ける注文をとにかく処理し続ける取引の営業担当者は攻めでしょうか)ですし、新たな価値創出スキームを作り出したルール形成担当は、直接売上にいくら貢献したか分からないとしても「攻め」ているように思われます。 そしてこれまで通りの育成で単独で攻めも守りもできる人材は育つのか、そもそもひとりがどちらもできるものなのか、なども興味のあるところです。 今回あまり経営学の用語を用いませんでしたが、考えていくにあたっては参照できる既存の理論は多くあると考えています。こちらもいろんなアプローチをし、公開非公開様々な形で成果を出していきたいと思います。 この辺り全般は今後オンラインオフライン問わず議論したりアドバイスいただいたりしていきたく、本年の目標の一つとします。

結論はありませんが今回はこのあたりにて。本年もよろしくお願いいたします。

*1:https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/news/newsrelease/cc/2015/151202_1.pdf

*2:直近だとリーガルテックってどうよ?(契約レビュー編): 経文緯武を拝読して、契約書レビューにおける「いまできること」と「今後育てる必要があること」が参考になりました

*3:昨年の記事だと日本の労働人口、2040年には20%減少の見通し | 世界経済フォーラムなどの記載が象徴的

*4:ここにさらに男女問わぬ家庭責任の負担と時間配分の必要性も生じてきますが、論点が拡散するので今回は置きます

*5:googleをsite:go.jpで検索したらことごとくmeti.go.jpだったのは私の検索が簡易だったからだけではないはず。。

*6:https://www.meti.go.jp/press/2019/11/20191119002/20191119002-1.pdf

*7:https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/cgs_kenkyukai/pdf/2_010_04_00.pdf

*8:https://www.meti.go.jp/policy/economy/hyojun-kijun/katsuyo/jinzai/index.html

*9:https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/it_keiei/100sen.html