南原繁「形相」
印象に残ったものを挙げる。
「業苦」一連
いまの現つに世を憤りはた自らを嘆けばつひに学者たらじか
愚かしくひとつのことに思ひこり学びつづけつつ吾が生は経むか
現世にわれこの業を選びとりしことも思はじただに信ぜむ
一生の力こゆる仕事にたづさはり吾のいのちの長かれと思ふ
とこしへにわれのいのちの生くべくは吾が貧しさはいはざるべし
あまりにも一方的なるニュースのみにわれは疑ふこの民の知性を
人間の常識を超え学識を超えておこれり日本世界と戦ふ
たかぶれる心あきらかに打たるる日歴史にありて国はほろびし
わが裡に人に知らえぬよろこびのかすかにありてものを書きをり
美しきものはわが見て善きものは読みてぞ置かむ明日は死すとも