「ALLIANCE—人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用」

この8月に20冊くらい本が読みたい、という目標を立てて、帰省中や移動中にまとめ読みしている中、「ALLIANCE—人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用」について書き留めておきたいことができたので久々にこちらに記載。


本書は、雇用主と社員の「相互信頼と相互投資、そして相互利益を高めるような新しい雇用の枠組み(P.26)」として、雇用を「アライアンス」として捉え直す試みについて、筆者の一人であるリード・ホフマンが創業したLinkedInの事例を中心に、具体的な試みを記述している。
詳細はぜひ本書を読んでいただければと思う(文字がそんなに詰まっていなくて200ページ程度なのですぐ読めると思う。しかし内容が薄いと言っているわけではない)。
とはいえ、概要を述べると、終身雇用でもなく、かといって突然の転職で完全に切れてしまうようでもない労使の関係、そして互いに利益を得られる関係を、雇用された際にコミットメント期間を設定することから形成し、当該コミットメント期間についてミッションを期間内に成し遂げることに、社員の側も自らの信用をかけて注力する。
そしてその期間が満了したときに、社内でさらにコミットメントができればそれはそれでいいし、外部に次のチャレンジを探しに行くのだとしても、互いの信頼関係を持ったまま、繋がり続ける形で送り出す。
その「卒業生」コミュニティは、新たな人材獲得や信頼できる情報の収集、そして自社のブランド構築に役立つ。(マッキンゼーのアルムナイは大変良い例)

「終身雇用」から「終身信頼」への変化が、今後の雇用において重要となる、というのが通底するメッセージである。


コミットメント期間と産休/育休からの復帰の相性はいいのではないか?

この、「コミットメント期間」の合意とそこで構築される信頼が、産休育休を経て働き続けるための要件と相性がいいのでは、というのが、一読して得た発見である。

本書に、LinkedInのイーダ・グルテキンさんが、エンジニア→スタンフォードMBA→ベイン、とキャリアを積んでLinkedInに入社後、2回のコミットメント期間を合意し、そこで成果を挙げたことで「強いアライアンス」を得た事例が挙げられている。
そこで「アライアンス」があったことで、彼女は、妊娠経過が順調ではなく、想定より長く休まざるを得なかったことを問題なく乗り越え、次のコミットメント期間に入れている。

これは今までも考え、今後より具体的に考えたいところであるが、ケア責任を負うものが働き続けるために必要なものとして労働環境の対応があることは否めず(上記の例だって、休めないことには始まらない。それは妊娠のみならず、体調を崩したり、家庭の事情が生じたときも同様)、そこはベースラインとして整えなければならない。
ただ外部要因のみならず、雇用する側・働く側のマインドセット自体が大きなファクターになる、ということをこのところ強く感じている。

自己ではどうしようもない環境(子どもや自分の不調など)には適応もしくは対抗するしかないとは言え、確かに上司や会社との間に信頼関係があれば「一緒に考える」ことができる。また、やむを得ない理由でいったん辞めざるを得ないとしても、信頼があれば、将来的にまた道が一緒になることもある。
そういうフレキシブルさがお互いにあれば、続けること「だけ」に必死になったり、いったん離脱することに大きな悲観を抱いたりする必要がなくなる。

じゃあ具体的にどうするの、と言うところが、アライアンスの合意書は付録として有りつつも、いまいち普遍性を持っていない感は多少ある(まあ、シリコンバレーの事例だしね、とは言いたくないけどやはりその色は濃い)のだが、しかしそこを超えて、外観としての終身制より、緩やかな信頼で結ばれた関係により解決することもあるのでは、という発想は大変共感するし、可能性を秘めている。
個々人の問題意識によって響くところは違うと思われるが、自身の働き方、将来の描き方に閉塞感を抱いているなら、一読して損はない一冊。



 
ALLIANCE アライアンス―――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用
リード・ホフマン;ベン・カスノーカ;クリス・イェ
2015-07-10