仕事と育児、両立の条件(試案)

ここ数日巷で話題のこの動画をご覧になった方もいらっしゃるかと存じます。




働く母のリアルな現実を描こうという試み(そしてかなりの程度で成功している)ということで、各所で感想や意見が湧き起こっております。


管見の限りでは、
  • 大変だ! 確かに寄り添わなくてはならない!!(共感型)
  • というか夫は何をしているんだ!(憤怒型)
  • 現実はわかった。で、どうしたいの?(課題解決追及型)
  • そもそもそんなに歩いて通わなければならない状況なら子乗せ電動自転車を買おうよ…(課題解決追及型亜種)
  • そんな思いまでして女性が働いているのがおかしい!男性片働きでもやっていけた時代に戻さなければ!(復古型)
という意見に分類されていました。 (他にもあるかもしれません)
 
個人的には憤怒型と課題解決追求型(亜種も)の双方の感慨を抱きました。一般論で恐縮ですが、せっかく働くなら、やりがい!とまではいかずとも、苦しみのみを抱き続けるのは避けたいところです。そしてそういう苦しみから逃れられる人が一人でも多くあれと願っています。 


私は、元気に、泣かずに働き続けられています。しかし、何もかもを持っているからできるわけではなく、持っているものも最初から得たわけではなく、試行錯誤を繰り返して、「あれ、これがあると楽かも」というやり方を行き当たりばったりも含めて探してきました。

今回、様々な議論を見ていて、みんなが持っているもの(背景、現状、etc...)が違うから噛み合わない、という面が窺い知れ、それ故に深く考え込むところがありました。


私は働きつつ5歳児をひとり育てているだけですので、全てを語れるとは思いませんが、これまで見てきた事例から、

「仕事と育児の両立を左右する要素」

を書き出して(通勤電車内でざっとやったので抜け漏れあるかと思いますが)みると以下のようになりました。

育児要因 労働関係要因
会社からの距離 親族 子どもの健康 雇用形態 仕事の内容 所属企業 配偶者の企業 配偶者の意識
至近 同居 健康 フルタイム正社員 労働時間に賃金 旧来型日本企業 旧来型日本企業 性別分業
1時間以内 近居 マイナートラブル有 時短 成果に賃金 フレキシブル フレキシブル 平等に分担
それ以上 遠距離別居 持病有 非正規雇用
求職中


育児要因

家庭環境要因でもあります。
これは、転居等で変えられるように見えて意外と変えられません。
しかし、どうしても切羽詰まったら、
「会社からの距離」と「親族」要因は動かせると思います。(転居、転職、親の呼び寄せ、等)
ただ、親族は近くにいると都心部では認可保育園に入れなくなりがち(ポイントが下がる場合があります)ですので、そこはpros/consを各家庭で検討する必要があります。
また、保育園に入りやすい地域は往々にして都心から離れており、職場に通い難い可能性があります。保育時間は長くなり、有事にお迎えに行けなくなります。この場合こそが親族近居で解決しやすいところでございます。しかも皆さんが希望する園庭のある保育園は郊外の方が多いでしょう。(園庭にこだわった、そんな時代が私にも4年以上前にありました…)
とはいえ、頼れる親族が近くにおらず、しかも職場から遠い、というのは生活の持続可能性が下がりましょう。

このあたりを全て鑑みて、まずもって保育園に入れるかどうかで人生変わりまくる、という煉獄があります。不幸自慢をするのは好みませんが、保育園入れてるだけで「大丈夫」じゃないか、という気持ちにすらなる、それが保活な気もします。…いかん、後ろ向きなことを書く気はなかったのに、昔の保育園探しとそれに伴う転居のあれこれ×2を思い出してしもうた。



立ち戻って、「子どもの健康」はいかんともし難いです。とはいえ「マイナートラブル」の防止に対して工夫することは、ある程度効果があります。例えば、我が家は電動鼻吸い機を導入してから耳鼻科通いも発熱も減りました。もう5歳なので使いませんが、乳児期は本当に重宝しました。

その他、予防接種も重要です。(我が子はまだ1回接種の時期でしたが、水ぼうそうが大変軽く済みました)

育児要因はまだ、自分で努力するというオプションが取れるところです。


労働関係要因

これこそが個人的努力で変え難いところで、だからこそ、冒頭のような、問題を訴える形での動画等が出て参るのだと考えます。

上の分類でいうと、私が一番両立しやすいと思うのは、
「フルタイム正社員で、成果に賃金が支払われ、夫婦ともにフレキシブルな働き方ができて、夫婦関係も対等」
という形です。見るからに当然ですね。こういう人は保育園にも入りやすいというおまけもつきます。


ただ、こんな仕事の仕方をできる人が、世の中にどれだけいるというのでしょう。
そしてそんな仕事に近づきやすい「キャリア女性」層ですらも涙をのんでいる、という現実を描いたのが


です。先日簡単に感想も書きましたが、この困難については是非本書を読んでいただければ。


上記を踏まえて、本来望むべき、目指すべきところとしては、
非正規雇用で、時給制で働いていて、旧来型の企業で苦闘していて、配偶者(往々にして現状では男性)が協力的でない」
という、状況として最悪の場合であっても、働きたい、もしくは働かねばならない環境なのであれば何とか苦しくなく働いていけて、漸進的にであっても両立環境が整う、という未来ではないでしょうか。
(このあたり、何らか研究されていたり提案されていたりするのであれば是非読んでみたいと思って、ちょっと探しています) 



解がないならどうすればいいのか

唯一解がないからこその問題提起、というものは、無駄ではありません。
しかし、そこで議論が発散したり、不要にクラスタ同士がぶつかりあって対立関係が産まれるよりは、絡まりあっている糸を一本ずつでもほぐしていくほうがいい、つまりは解決できることをひとつひとつ解決する、という当たり障りのない結論が、有益であると考えています。

その一つの具現として、表でもリストでも何でもいいので、自分を阻むもの、自分の背中を押すものを、同輩や後進に共有していくことの有益性を、私は強く主張したいと思います。


先進的な働き方、先進的な社会改革、いずれも価値のあることです。しかし社会は一気には変わりません。

多少話題はぶれますが、両立のみならず家庭における孤独な育児を支えるためにも、企業は夫(のことが多いのでこのままにします)を家に帰せ、せめて定時に帰ってくるだけで違う、という言説には経験則上も同意します。しかし、医師や看護師を始めとする、昼夜や休日も不規則な仕事を選んだ人が、社会を支えてくれています。
そういう仕事をしたい人であっても何らかの形で育児との幸せな両立はできてしかるべきで、そのための工夫も併せて考えていかねば、本当の意味での両立はないのでは、という思想をわたくしは持っております。

だからこそ、どのファクターにより両立が容易になり、どのファクターがより両立を阻むのか、について社会で共有することが、場合場合に応じた「仕事と育児の両立」につながる可能性を、私は強く感じています。
その困難はもしかすると、他の要因で仕事に対して困難を抱える(介護、自分の病気、その他色々ありましょう)人の課題とも併せて解決すべきものであるかもしれません。課題を分解し、ひとつずつ改善に向けて考えていく試みは、社会全体に資すると考えます。



冒頭に帰って

寄り添いは、ありがたく受け取ればいいのではないかと思います。
この寄り添いが解決に資するか否かは、その先の試みとして起ちあがる人々の、背中をひっぱたくような気合の入る第2作ができるかが、試金石なのではないでしょうか。


…私ですか? ま、独立独歩で頑張ります。
わたくし個人の両立に対する思考は

に表してございますのでご興味の向きはご覧いただけると幸いです。